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「バッドモーニング」いや「グッドモーニング」
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     アブラゼミの五月蝿い金属音と共に,「ガンガンガン」と鈍い音が響く。
    ブラックジーンズにチェックのBDシャツというスタイルで,実際の年齢よりも若く見えるものの,この古めかしく急な階段を一気に4階まで上がるのは、難儀な事であろう。
    さらには,直射日光に照らされ熱膨張で開けづらい旧式のドアを開けなければならない。
    かれこれ,10分近くドアを引っ張り続けている。さすがに疲れたようだ。


     「アッタマに来るわ〜!あんなに遅くまで引き連れ回されるとは…。おかげで最悪の朝だわ。オマケにこの階段,一体いつの時代の代物なのかしら,古い・汚い・急。三重苦ね!ヘレンケラーもびっくりよ。」
     「ガンガンガン」 何事?一瞬考えたがすぐにわかった。四階のあのレトロなドアがまた開かなくなって、誰か強引に開けようとしているのね。
     汗だくになった相談役が振り返り「僕には無理だ…。」と言った。
    「わたしにだって無理だし…。」と思ったが口には出さなかった。


     昨夜は,少しばかり飲み過ぎたようだ,瞼が重い。まだ残っているんだろうが…。出社しない訳にはいかない。
     朝だというのに,何だこの暑さは。学生でスシ詰めのバスで出勤する。
     社に着き,ツェッペリン宜しく『天国への階段』を上がろうとすると少し前に女子社員の南が上がっていくのが見えた。昨夜遅くまで引き連れ回したので気まずい。重い足取りがさらに重くなった。
     少しテンポを遅らせ4階までたどりつくと,汗だくの相談役と少しむくんだ顔をした南がこちらを向いている。
     さては,例の熱膨張だな。「まかしておけ。」目一杯の力で引っ張るがダメだ二日酔いのせいで力が入らない。さらに「気まずさ」が増す。


     「あいつら,ちゃんと出社しているだろうな。」そう思いながら遠い会社までの道のりをバイクで向かっていた。腰痛持ちの50代親父にはキツイ距離だ。
    昨夜,後半は酔っていて覚えていないが帰り際に,高木が南を2次会に誘っていたような気がするのだが…。
     年かな…4階まで上がるのに腰も痛いが,息も切れるようになってきた,「煙草をやめるか酒をやめるか。まあどの選択肢もないな。」とつぶやきながら階段を上がりきると,3人でドアを引っ張っている。
     「どうした?余興で『大きなかぶ』でもするのか?」
     「朝っぱらから,面白くない冗談いっている場合じゃないですよ。」
      酒焼けでしゃがれた声の高木が言う。
     「なんだお前酒くさいぞ,二日酔いか?」と聞くと,ばつが悪そうにうつむいた。
     「お願いします。開けてください。高木さんったら全然役に立たないんですよ。」
     「南にまで言われて,お前は…。俺は腰の調子がすこぶる悪い,高木頑張れ。」
     「チェッ。上田のやつはまだか。昨日は飲み会にも来てないんだから,早く来いよな!  こんな時にかぎって…。」


     軽快な足取りで,一気に駆け上がってきたのが上田だ。
     爽やかな笑顔を見せながら「みなさんお揃いで,どうしたんですか?」
     「上田さん,待ってました。また熱膨張で空かないんです,早く開けて下さい。」
     「どうしたもこうしたも,お前遅いんだよ!まったく。」と言いながら,懇親の力を込めてドアを引っ張る高木。だが一向にドアは閉ざされたままである。
     その様子を見ていた上田が一言「ところで,鍵は空いているんですか?」
    おもむろにキーを差し込んで回し,ドアを引っ張る上田。
     「ガン。ほら…。」


     皆,上田とは目を合わさず無言のままタイムカードを押す。
    PCの電源を入れるもの,コーヒーを沸かすもの,手を洗うもの。
    次第に出社ギリギリメンバーが何も知らずに出社してくる。
     高木は階段の踊り場で煙草に火をつけ呟いた。
    「なんて,朝だ…。さあ今日は校正を戻さなければ…。」

     出版社のアツく長い1日は,まだ始まったばかりだ…。

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