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マジムン・サンタのいる階段
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     照りつける暑い日差しは、未だに薄い皮膚をじりじりと刺激するが、夏の入道雲たちはどこかへと消え去り、街はクリスマス商戦へと彩りはじめた。
     額に汗を浮かべながら、仕事に追われた人々が忙しなく行き交う交差点。
    そこに、教材を扱う沖縄の一出版社がある。
     かつては士族たちの景勝地であった奥武山を近くに迎え聳え立つ、歳月の経過を示す少しばかりくすんだ白い建物。窓には年代物の緑色のブラインドが常に降ろされ、白地に縦長のビルとのコントラストをより一層と際立たせている。そんな建物の裏手には四階までと続く外階段があり、初めての来訪者たちは、少し不安気にゆっくりと、そこを上がってゆく。そんな階段を日々の歩調にあわせ、一段また一段と積み上げるように私は上る。今日の仕事、その先に控えている仕事。考え事をしながら上り下りなんかした時には、「長い階段の先、その扉の向こうへ抜けると別の階であった」なんてことになりかねない。トンネルを抜けると雪国じゃあるまいし。
    「きっとここにはマジムンがいるんだ……」なんて、仕舞には言いだしてしまう奴もいた。疲れている時なんかは長く伸びたような錯覚すら覚えさせるその階段を、若い奴らは軽い拍子にあわせてトントンッ、と上っていく。最近入った生意気な若造の足取りなんかを眺めていると、イジメてやりたい気持ちにもさせられる。いいか、身体が重くなったのではなく、多くのものを抱えて生きてきたのだ。

     閉め切った室内での仕事は、時の流れすらどこかへと置き去りにしてしまう。ひと息つこうと外へ出ると、生暖かいそよ風が茜色に染まった夕焼けにのって、エアコンで冷え切った肌の上を、じゃれるように纏わりついてきた。
    夕暮れの街を、階の間の踊り場から眺める。
    「ずいぶん増えたな、周りにも新しい建物が……」
    同じように季節が回っていても、この街も日々、少しずつ生まれ変わっている。
     若い母親に手を引かれ、家路につく子どもの姿。あの子達も、どこかで私たちが一つ一つ言葉を紡ぎ、編集し、届けた本に出会うのだろうか?いや、もしかしたらあの母親が小さい頃に、本を通して……。
     サンタクロースなんてのも、妖怪みたいなものか。贈り物が教科書なら、勉強嫌いな子どもたちからすれば俺たちはマジムン・サンタ、だな。そんなことを考えていると、思わず口角があがっていた。
     「ジングルベール、鈴が鳴るゥ〜♪」
     ジングルベルを口ずさみながら、無愛想に剥き出しなコンクリートの上で、こっそりとタップを踏む。何故か思い出されるのは、忘年会で真っ赤な鼻のトナカイになった部下の姿だった。
     沈み行く夕日が、私にタバコの火をつけさせる。着物の裏地のようになめらかな煙は、絡まった思考の糸をほどいて、ただまっすぐに昇っていき、夕焼け色に染まるビロードのような空へと広がり溶けていく。沈む間際の夕日は、より一層と明るさを増し、心の奥底までほんのりと染め上げ始めた。
     ふと下の階の扉が開き、キツネにでも化かされたような面持ちで出てきた若造と目が合う。
    「……この階って見分け方ってあるんですか?」
    照れ臭そうに頭を掻きながら尋ねてくる若造。
    「……知りたいか?」
    「ええ、ハイッ!」
    威勢の良い返事に、私は満面の笑みで返してやった。
    「お前には教えーん」
    呆気にとられる若造を尻目に、不思議と気持ちが軽くなった足取りで、私は再び長い階段を上りはじめた。
    (※この物語はフィクションであり、実在の人物、団体とはたぶん関係ありません)
    | tant-o | 時事出版の階段 | comments(0) | trackbacks(0) |
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